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東京高等裁判所 昭和53年(行ケ)207号 判決

被告は、原告が不法、違法な手段によつて引用商標である「月の友」の登録を得た経緯を仔細に述べて原告には、この「月の友」なる登録商標を引用して本件商標の無効審判を請求しうるいわゆる審判請求人適格はなく、また本訴を維持すべき利害関係がないとして本訴請求を棄却すべきであると主張するが、本件審決取消請求事件は、審決の効力を争う訴訟であつて、審判請求事件自体の継続審たる性格のものではないから、本件審決取消請求訴訟において、審判請求人たる適格のないことを主張することは妨訴の理由となりえない。

したがつて、被告の上記妨訴抗弁は採用することができない。なお、引用商標「月の友」の登録は、審決により無効とされない限り、これを有効なものとみなければならないし、被告主張の事由をもつてしても引用商標の登録を当然無効と考えることはできない。

そこで、審決を取り消すべき事由の有無について検討する。

本件商標が、別紙目録(一)のとおりゴシツク体をもつて「エースツキノトモ」の片仮名文字を横書きして成る構成であることは、争いがなく、また、成立に争いのない甲第二号証によれば、「エースツキノトモ」を構成する各片仮名文字は、横一線にほぼ同じ間隔で配置され、しかもその書体、大きさも異るところがないことから本件商標は、全体として比較的横長の印象を与える構成のものであることが認められる。

そして、「エースツキノトモ」の構成のうち「エース」の部分は、英語の「ACE」に由来し、すでに、一般世人の日常会話においても、「巨人のエース」などという表現にみられるごとく、日本語化されたとみられるありふれた語であり、しかも、この「エース」なる語が、商品に付する標識として他の語と合わされて商標の語頭もしくは語尾に付されて用いられるときには、「スーパー」、「ゴールド」などの文字と同じように、商品の品位、品質が「優れたもの」、「第一流のもの」であることを誇示的に表現するために用いられているものであることは、周知の事実である。また、本件商標「エースツキノトモ」のうち、後半の「ツキノトモ」の部分は、「ツキ」(月)、「トモ」(友)という日本語としてきわめて平易な日常的な語で構成されており、一般の需要者としては、普通に、これを「月の友」に相当する語と認識理解するものとみるのが自然である。

そうすると、本件商標「エースツキノトモ」には、その構成の上からみても、「エース」と「ツキノトモ」とに分離して認識理解される契機が包含されているものといわざるをえない。この点、被告は、「エース」の語と同じように「最上の」という意味をもつ「BEST」、「ベスト」の文字が他の語と結合して一体の商標として登録された事例や「エース」、「ACE」なる商標が特別顕著性あるものとして登録された事例を挙げて、これらと同様に、本件商標「エースツキノトモ」が、一体としてのみ称呼、観念されるものであると主張するが、本件商標が、前判示のとおり「エース」と「ツキノトモ」に分離して称呼、観念される余地のあることは、被告提出の乙号各証に記載された登録商標によつてもこれを否定することはできない。

「エースツキノトモ」のうちの「エース」の文字が前記のとおり商品の品位、品質の優秀性を誇称表示するものと一般に認識されていることからすると、本件商標が、その指定商品に付されて簡易迅速を旨とする具体的な取引の場所におかれたときには、「ツキノトモ」の部分のみが識別力ある部分として一般需要者に認識記憶されることはありうるところであるから、本件商標からは、「エースツキノトモ」なる一連の称呼のほか、「ツキノトモ」の称呼とこれに相応した「月の友」の観念が生じることを否定することは困難である。

したがつて、審決は、本件商標が、「エースツキノトモ」という一連一体の称呼を生ずるのみの一定の観念を生じない造語であると判断した点で誤りといわざるをえない。

そうすると、本件商標と引用商標とは、いずれも「ツキノトモ」の称呼とこれに即した「月の友」の観念を生じる点において互いに類似するものというべきであるのに、審決は、本件商標と引用商標との類否の判断を誤つたために、両者の指定商品の類否の判断をなすことなく本件商標の登録を無効とすることができないとしたものであつて違法たるを免れない。

よつて、その違法を主張して本件審決の取消しを求める原告の本訴請求を理由があるものとして認容する。

〔編註その一〕 本件における請求原因は左のとおりである。

1 特許庁における手続の経緯

被告は、別紙目録(一)のとおりゴシツク体をもつて「エースツキノトモ」の片仮名文字を左横書して成り、指定商品を第二〇類家具、畳類、建具、屋内装置品、屋外装置品、記念カツプ類、葬祭用具とする登録第一〇五五〇六二号の商標(昭和四六年七月二六日登録出願、昭和四八年三月二八日出願公告、昭和四九年二月一二日登録)(以下、「本件商標」という。)について、商標権を有するものであるが、原告は、昭和五〇年六月二四日、被告を被請求人として本件商標登録の無効の審判を請求し、昭和五〇年審判第五五二五号事件として審理された結果、昭和五三年一〇月二〇日、「請求人の申し立ては成り立たない。」旨の審決がなされ、その謄本は昭和五三年一一月八日原告に送達された。

2 審決の理由の要旨

(一) 本件登録第一〇五五〇六二号商標の登録出願および登録の各年月日、その構成ならびに指定商品を前項のとおりと認める。

(二) 請求人が本件商標を商標法第四条第一項第一一号に該当するとの理由に引用した登録第八二三五一六号商標(別紙目録(二)参照。)(以下、「引用商標」という。)は、明朝体をもつて「月の友」の文字を横書きして成り、第一七類被服(運動用特殊被服を除く)布製身回品(他の類に属するものを除く)寝具類(寝台を除く)を指定商品として、昭和三九年二月一七日に登録出願され、昭和四四年六月三〇日に登録されたものである。

(三) 本件商標は、片仮名文字のみをもつて、引用商標は、漢字と平仮名文字をもつて構成されているものであるから、外観においては充分識別し得る差異を有する商標といえるものである。

次に、称呼および観念の点についてみるに、本件商標は「エースツキノトモ」の文字を同じ書体、同じ大きさ、同じ間隔をもつて一連に書して成るばかりでなく、たとえば、これを「エース」と「ツキノトモ」の二つの部分に分け、「ツキノトモ」の部分より生ずる称呼のみをもつて取引せしめるが如き格段の事情が存するとは断じ得ないものである。すなわち、該「エース」と「ツキノトモ」のそれぞれの語意が直ちに理解把握できる程度のものとはいい難い構成に係るものと判断するのが相当である。したがつて、本件商標は「エースツキノトモ」と一連一体の称呼を生ずるのみの一定の観念を生じない造語を表示した商標とみざるを得ない。

請求人は、「エース」の文字は「最高の」の意味を表わすものとしてよく知られているから、本件商標中「エース」の文字が自他商品識別力を欠くものであり、本件商標の要部は後半部の「ツキノトモ」にある旨主張している。

しかしながら、「エース」の文字が本件商標の指定商品たる家具、建具等の品質を表示するためのものとして取引上普通に使用されていると認めるに足る証左はない(請求人の例示した昭和四一年審判第六一一六号事件その他の事件記載の審決要旨は商標の構成自体および指定商品を異にする事件に対する一の判断を示したものにすぎない。)。したがつて、請求人の主張は採用できない。

他方、引用商標は、その構成文字に相応して「ツキノトモ」(月の友)の称呼、観念を生ずるものであること明らかといえるものである。

しかして、本件商標より生ずる「エースツキノトモ」と引用商標より生ずる「ツキノトモ」の両称呼には何等相紛らわしい点はないといわなければならず、又、両商標は、観念を同じくするものともいい得ない。

してみれば、本件商標は、指定商品の類否の如何にかかわらず、外観、称呼および観念のいずれよりしても引用商標とは類似しない商標であるから、その登録を商標法第四条第一項第一一号に違反してなされたものということはできない。

かりに、被請求人の本件商標より先願にかかる「月の友」の文字を構成要素とする昭和四〇年商標登録願第四一八三七号商標が登録になつたとしても、もとより本件商標と「月の友」との間には何等の共通点もないこと前項に述べたとおりであるから、本件商標は商標法第七条第一項に違反して登録されたものということはできない。

以上述べた理由により、本件商標の登録は、商標法第四六条第一項第一号をもつて無効とすべきでない。

〔編註その二〕本件に関する商標は左のとおりである。

別紙目録(一)

<省略>

別紙目録(二)

<省略>

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